「え・・・大学が移転するって・・・本当か?」
俺が驚いたのは・・・
が通っている音大の移転の話を突然聞かされたからだった
は、俺の通っている一流大学の隣にある
一流音楽大学に在学している
はばたき学園を卒業して1年
ようやく二人でいる事の呼吸があってきたんだ・・
何をするにも一緒の空間で居られた高校時代
でも、大学が違う今は・・・
時間の約束をして・・・待ち合わせて会う
その待っている時間も・・・俺は結構好きで
が・・・俺を見つけて走ってくるところとか
それを見ただけで嬉しい・・・
「それを・・・なんだよ、いきなり移転って・・・」
「いきなりじゃないわよ?
入学する前から、山梨への移転は決まっていたんだもん」
「そんなの・・・俺は知らなかった・・・」
「それって、珪くんは、私が話しても聞いて無かったって事じゃない?」
「え・・・?それは・・・」
確かに・・・・が年中・・・
『富士山を眺めて勉強できるなんて最高』
とか
『山梨はブドウの名産地だからブドウ狩りしようね〜』
なんて言っていたような記憶がある
だけど・・・まさかそれが、大学移転の話だとは思わなかった・・・
そして・・・俺のことなんて何も関係なく
山梨県富士山のふもとに
一流音楽大学の新しいキャンバスが出来上がった
学生は・・・
澄み切った空気を感じながら勉学に励み・・・
また自らの才能を伸ばしてゆく・・・らしい
「山梨だったら・・・はばたき市から通えない範囲じゃないだろ?」
「今しかできない一人暮らしがしたいの、ねえ、珪くんダメ?」
こうして・・・3月の終わりに、は山梨へ引っ越していった
「お弁当にお茶はいかがですか?お土産に、はばたき名物シュウマイはいかがですか?」
中央新幹線の車内は・・・8割の乗車率
GWで・・・行楽地へ向かう家族連ればかりだ
俺はサングラス越しに・・・窓の外の緑を眺めていた
はばたき市を離れてたった15分
急に色濃くなった新緑が・・・目に眩しい
たった一時間強の道のりなのに・・・
のいる場所が・・・俺のいる場所とは違うことを感じた
「・・・水をください、それとシュウマイをひとつ」
俺は車内販売で・・・ペットボトルの水を買った
いつも飲む銘柄と違う・・・
よく見ると「富士山の名水」って書いてある
水まで富士山か・・・
少し面白くない気分のまま・・・キャップをひねり水を口にする
水はキンと冷たくて・・・なんだか悔しいほどうまい
どんなところに住んでいるのかは一応知っている
引越しのとき・・・俺も一緒に手伝ったから
駅からは・・・歩いて8分
大学から歩いて12分
遠すぎず・・・近すぎない・・・
音大が出来るってことで・・・
畑をアパートに変える農家が多かったんだろう
ピンク色の壁が・・可愛らしい新築のワンルームアパート
周りには・・・コンビニひとつ無い
産みたて玉子の牧場が近所にあるらしい・・・そんな場所
201
角の部屋だから・・・小さな出窓がついていた
そこに・・は白いレースのカーテンをかけた
レースだと外から見えてしまうから
俺が・・・厚手のカーテンをかけろって・・・そういった
でも・・・は
『朝日が入ってくるのが幸せなのにぃ』
って膨れてた
多分、あいつのことだから
そのままにしてるんだろうと思う
駅について・・・俺はのどかな畑の間の道を歩いてゆく
一人暮らしだからって・・・男とか部屋に入れたり
まさかそんなこと、に限ってあるはずは無い
だけど・・・大学の奴らとも
もう既に2年の付き合いがある
そもそも俺からしてみると
の周りの友人は変わった奴が多い
あいつはみんな「いい人なんだから」って言うけど
男がのことを・・・どんな目で見てるかあいつはわかってないんだ
全く・・・いつまでもそういうところは鈍感だから
やっぱり・・・今日という今日は
少し、に生活全般を指導してやら無いといけないだろう
それでなくても・・・のほほんとして
隙が多いんだ・・・あいつは
ついでに・・・妙に親切だから
男に誤解されるような事態を招くことも多い
やっぱり、ここは俺が少しきつく言ってやろう
一人で暮らしていることの危険性と安全確保
ん・・そうしよう
ピンク色の壁が視界に入ってきた・・・
俺の予想通り・・・出窓にはレースのカーテンしかかかってない
俺は・・・ほんの少し足早に
のアパートの階段を上った
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